メンタルヘルス対策研究所の高橋です。メンタルヘルス対策に関するあれこれを情報発信しています。皆さんの日ごろの社内の健康管理やメンタルヘルス対策、ストレス対策に参考にしてもらえると嬉しいです。
現代社会のなかでは、多くのストレスは対人関係から発生しています。特に職場でメンタルヘルス問題の原因のトップは対人関係にまつわるものです。メンタルヘルス問題での労災認定は毎年600件程度ですが、その原因は主に次の3つに集約されます。1つめはパワハラ、2つめは悲惨な事故の体験や目撃、3つ目は同僚からのいじめです。パワハラやいじめは人間関係にダイレクトに関連しているものですが、2つ目の悲惨な事故の体験や目撃からの回復はどのくらい安心できる対人関係上のサポートを受けられるかに依存しています。そう考えると、働く人を取り巻く周囲に、安心できる人間関係があり、そこで必要な相談ができることがメンタルヘルス対策の根本になります。
人間関係で相手と自分の状況を理解して、相手との関係を維持しながら自分の考えや感情を上手に伝えるスキルを社会生活スキル(ソーシャルスキル)といいますが、安定した人間関係を構築・維持するためには、本人や周囲の人(特に上司)のソーシャルスキルを高めておくことがとても重要です。ソーシャルスキルは、ほかの人と必要なコミュニケ―ションをとったり、親密な対人関係から適度な距離感の対人関係を構築するという2つのスキルに大別されます。これらのスキルが高いと本人の希望が実現しやすくなり、生活の質が向上し、精神的な健康度も高くなります。反対にスキルが低いと、対人関係でストレスを抱えやすく社会生活上の困難が多くなります。
1970年代に、慢性の精神疾患を持つ患者さんたちはソーシャルスキルが低いため社会のなかでうまく生活できないことがわかり、Social Skills Trainings (SST)が開発されました。ソーシャルスキルは適切な学習と練習によって向上させることができ、それを効率的に学習できるように構造化したのがSSTです。SSTでは、対人場面において、必要な考え方や行動のとり方を支援者とともに学習します。いまではSSTは精神科医療の場面のみならず、就労支援や保護矯正分野、教育の場面など広く利用されるようになっています。
SSTで大事なことは現状を正しくアセスメントして本人の希望にもとづいて練習を計画することです。練習のなかでは、モデリングや課題の細分化、行動形成、適切なフィードバック、過剰学習などの技法を用いて、適切なスキルを学び、それを自分のものとして利用できるように練習し、自己肯定感も高めていきます。
このSSTを産業メンタルヘルスの支援者が実践できるようになったら、職場での多くの問題の解決が容易になります。そのための活動をメンタルヘルス対策研究所では続けています。